-加味逍遙散(かみしょうようさん)-


加味逍遙散(かみしょうようさん)の効能

体力があまりない人で疲れやすく、手足がだるくて、肩こり、頭痛、めまい、不眠、イライラがあり、上半身が熱くなる人に用います。婦人の血の道症、更年期障害、流産、中絶、卵管結紮後(らんかんけっさつご)の血の道症、虚弱者の便秘、肝臓障害などに用います。更年期障害で、もっとも多く処方されるものです。女性の更年期障害、月経不順・月経困難症、自律神経失調症などに用いられます。疲れやすい、不安、不眠、イライラ、頭痛、のぼせ、肩こり、便秘、冷え症など、さまざまな症状に対応しています。


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加味逍遙散(かみしょうようさん)の解説

加味逍遙散(かみしょうようさん)の「心の病」に対する効果

「五月病」という心の病は広く知られた病気ですが、この心のスランプは5月に限りませんし、学生ばかりか一般社会人にも見られます。よく見られる五月病の症状は、抑うつ気分、思考抑制、不安感、焦り、不眠、疲労感、無気力などが多いようです。

原因は新たな環境に適応できずにストレスがたまり、解決しようとして気持ちが焦り、なんとかしようと思えば思うほど深みにはまってしまいます。ひどくなると自己嫌悪に陥って、死んでしまいたいなどと考えることもあるようです。

対症療法の西洋医学では、こうした心の病に対してトランキライザーなどの向精神薬を使って気分を高めるような治療をします。臓器や細胞単位で病気の状態をとらえる西洋医学では、合成された化学物質で作られる切れ味のよい薬を使う結果、私たちは大きな利益を得ました。その反面、薬の副作用や慢性病に対する対応の限界などが指摘されています。

一方、原因療法の漢方では人間を自然の一部とみなし、病を臓器単位ではなく全身的に見ていく点に特微があります。そして治療には、合成品ではなく天然の生薬を組み合わせて用いることにより、相乗的な効果を期待しています。この漢方では、五月病を「肝の病」ととらえ、「気がめぐる」ことを目標に治療を行います。

漢方医学では、人体は「気」(き)「血」(けつ)「水」(すい)の3要素からなり、相互が円滑に作用し合っていることが健康な状態と考えます。

「血」は西洋医学でいう血液とほぼ同じですが、ほかに全身の組織や器官に栄養を与えるという血液の滋潤作用や、血流などの循環の意味も含んでいます。「水」は津液(しんえき)ともいい、体全体を潤している清らかな水の成分を指し、現代病の多くが「水」の異常と関係があると考えられています。

もう一つ、心の病と深い関係を持つ「気」の概念は、漢方医学の中で一番分かりにくいものですが、形はないものの「働きそのもの」、つまり全ての原動力のようなものと考えればいいでしょう。気は体中をめぐり、血や水が隅々に行き渡るのを先導します。そして成長や代謝を促す役目をしています。こういう意味で、「元気」とほぼ同じものと考えていいでしょう。

漢方医学では、人体の機能を5つの要素(肝、心、脾、肺、腎)に分け、それぞれを体の臓器に割り当てて考えますが、西洋医学でいう臓器と同一ではありません。そして、この気の流れを受けもつ臓器を「肝」と考えています。肝は胆汁の排泄と関係しているという点で、わずかに西洋医学の肝臓と共通点を持ちますが、漢方では肝の主な働きを「疏泄(そせつ)を司る」としており、西洋医学の考え方とは大きく異なっています。

疏泄とは、体内の気の動きが順調かつのびやかであるように調節する働き、と考えてください。疏泄を司る肝は、腎から栄養をもらって活動していると漢方では考えています。

加味逍遙散(かみしょうようさん)の品質のポイントは薄荷(はっか)と白朮(びゃくじゅつ)

心の病と深い関係を持つ「気」の動きを、順調かつのびやかに調節する働きを持つのが加味逍遙散(かみしょうようさん)です。抑うつ気分、思考抑制、不安感、焦り、不眠、疲労感、無気力などの症状の場合、一般的に加味逍遙散が多くの方に適合すると思われます。

漢方薬は2種類以上の生薬を組み合わせた処方をいいますが、この加味逍遙散は、当帰(とうき)芍薬(しゃくやく)白朮(びゃくじゅつ)茯苓(ぶくりょう)柴胡(さいこ)甘草(かんぞう)牡丹皮(ぼたんぴ)山梔子(さんしし)生姜(しょうきょう)薄荷(はっか)の10種の生薬から成ります。

各生薬の配合は柴胡、芍薬、白朮、当帰、茯苓が各3g、山梔子、牡丹皮が各2g、甘草1.5g、生姜、薄荷が各1gです。

どの製薬会社のものでも、「加味逍遙散」と書いてあればこの10種の生薬でできているのですが、生薬自体の質の良否で効き方が大きく変わります。

加味逍遙散の場合、特に注意しなくてはいけないのが薄荷と白朮の質です。薄荷はミントで、気分を爽快にするメントールが主成分ですが、気をめぐらせるための大切な生薬で、抗うつ作用があります。

薄荷の香りの善し悪しは、加味逍遙散の効果に大きな差を生みます。この薄荷は中国にも日本にも広く産しますが、江蘇省(こうそしょう)や浙江省(せっこうしょう)で取れる「蘇薄荷」が最高の品質です。よく乾燥し、根がなく、葉が多くてなるべく新しい緑色の香りの強いものが良品です。

もう一つのポイントになる生薬が白朮。これはキク科のオケラという植物の根で、利水作用の生薬として使われます。ところが、白朮にはオオバナオケラという別の種類のものもあり、これには人参(にんじん)に匹敵する消化機能促進作用があります。

つまり、消化機能を強くすることによって体内の水をコントロールする働きがある白朮で、日本産のオケラと異なり、中国の断江省と湖北省の一部でしか産出しません。値段も日本産のオケラの数倍します。

実は、加味逍遙散はこのオオバナオケラが使われているかどうかで効きめが異なるのです。品質のいい加味逍遙散なら、五月病の症状が出ている人が飲むと気分がよくなります。ですから、春先に精神状態が不安定な方は加味逍遙散を試してみるといいでしょう。

適応される症状

配合生薬

配合生薬の効能

当帰(とうき)

婦人病の妙薬として、漢方でひんぱんに処方される重要生薬の一つです。漢方では古来、駆お血(血流停滞の改善)、強壮、鎮痛、鎮静薬として、貧血、腰痛、身体疼痛、生理痛生理不順、その他更年期障害に適用されています。

茎葉の乾燥品は、ひびやしもやけ、肌荒れなどに薬湯料として利用されています。鎮静作用はリグスチライド、ブチリデンフタライド、セダン酸ラクトン、サフロールなどの精油成分によります。また有効成分アセチレン系のファルカリンジオールに鎮痛作用があります。

駆お血効果を裏付ける成分として、血液凝固阻害作用を示すアデノシンが豊富に含まれています。また、アラビノガラクタンなどの多糖体に免疫活性作用や抗腫瘍作用が認められ、抗ガン剤としての期待も、もたれています。

芍薬(しゃくやく)

芍薬は漢方処方で最もよく配合される生薬の一つで、主として筋肉の硬直、腹痛、腹部膨満感、頭痛、血滞などに広く処方されています。

主成分のモノテルペン配糖体ペオニフロリンには鎮痛、鎮静作用の他、末梢血管拡張、血流増加促進作用、抗アレルギー、ストレス性潰瘍の抑制、記憶学習障害改善、血小板凝集抑制などの作用が有ります。その他、非糖体ペオニフロリゲノンには筋弛緩作用が認められています。

白朮(びゃくじゅつ)

朮は体内の水分代謝を正常に保つ作用があり、健胃利尿剤として利用されています。特に胃弱体質の人の下痢によく効き、胃アトニーや慢性胃腸病で、腹が張るとか、冷えによる腹痛を起こした場合などにもいいです。

日本では調製法の違いによって白朮(びやくじゅつ)と蒼朮(そうじゅつ)に分けられます。いずれも同じような効能を示しますが、蒼朮は胃に力のある人の胃腸薬として使い分けられています。

両者の主成分は、精油成分のアトラクチロンと、アトラクチロジンです。ちなみに、白朮には止汗作用があるのに対して、蒼朮は発汗作用を示します。朮は漢方治療では、多くの処方に広く利用される生薬の一つです。

茯苓(ぶくりょう)

茯苓には、利尿、強心、鎮痛、鎮静作用があります。漢方処方では利尿剤、利水剤、心悸亢進、胃内停水、浮腫、筋肉の痙攣などに茯苓を配合しています。

秩苓とは漢名で、植物名をマツホドと呼び、松の根に寄生するサルノコシカケ科の菌核です。秩苓は菌核に多糖類のβパヒマンを、それにテルペノイドやエルゴステロールなどの成分を含んでいます。

最近の報告では多糖類のパヒマンから誘導されたパヒマランに、細胞性免疫賦活作用が認められています。サルノコシカケ科に共通の抗腫瘍作用とともに、今後の研究が期待されています。

茯苓は民間薬としては使われず、まれに利尿を目的に煎液を飲む程度です。漢方でも配合薬としては汎用されますが、単独では用いません。

生姜(しょうきょう)

生姜は優れた殺菌作用と健胃効果、血液循環の改善効果、発汗と解熱効果があります。漢方では芳香性健胃、矯味矯臭、食欲増進剤の他、解熱鎮痛薬、風邪薬、鎮吐薬として利用されています。

辛味成分のショウガオールやジンゲロールなどに解熱鎮痛作用、中枢神経系を介する胃運動抑制作用、腸蠕動運動充進作用などが有ります。そう他、炎症や痛みの原因物資プロスタグランジンの生合成阻害作用などが認められています。

甘草(かんぞう)

甘草は漢方治療で緩和、解毒を目的として、いろいろな症状に応用されますが、主として去痰、鎮咳、鎮痛、鎮痙、消炎などです。

有効成分のグリチルリチンには、痰を薄めて排除する作用があり、体内で分解するとグリチルレチン酸となって咳を止めます。

その他、グリチルリチンには多種多様の薬理効果が有り、消炎、抗潰瘍、抗アレルギー作用の他、免疫活性や、肝細胞膜の安定化、肝保護作用、肝障害抑制作用などが明らかにされています。

有効成分イソリクイリチンおよびイソリクイリチゲニンは糖尿病合併症の眼病治療薬として、また胃酸分泌抑制作用もあり胃潰瘍の治療薬として期待されています。

甘草はあまり長期服用しますと、低カリウム血症、血圧上昇、浮腫、体重増加などの副作用が現れることがあるので、注意を要します。

柴胡(さいこ)

柴胡は漢方治療で解熱、消炎、鎮静、鎮痛薬として多用される重要生薬の一つです。主成分としてサイコサポニンA~Fなどのサポニンを豊富に含み、動物実験で上記薬効を裏付ける多くのデータが報告されている他、臨床的に肝機能障害の改善作用が認められています。

漢方では主として胸脇苦満、風邪、咽頭の痛み、気管支炎、肺炎などで炎症熱のあるもの抗炎症などを目標に慢性肝炎、慢性腎炎などに処方されます。

一時柴胡を配合した漢方薬が、一部の肝機能障害患者で副作用と思われる症状を示し、問題になつたことがありますので、他の医薬品と併用する場合は医師とよく相談してください。

牡丹皮(ぼたんぴ)

牡丹皮は鎮静、鎮痛、消炎作用があり、漢方で血行不順に関係する婦人病薬として、芍薬とならんで多用されますが、単独で用いられることなく、駆お血(血の流れの改善)処方に配合されます。

主成分は、フェノール類のペオノールやモノテルペノイド配糖体のペオニフロリンなどで、いずれも鎮痛、鎮静作用が認められています。ペオニフロリンにはまた、大腸薗、ブドウ状球薗、連鎖状球菌などに対して増殖抑制作用があります。その他タンニンを多く含みます。

牡丹皮は体質的には体力があり、便秘がちな人に適用されます。

山梔子(さんしし)

山梔子は消炎、利胆、止血作用があります。漢方では黄疸、肝炎、血便、血尿、吐血、不眠の治療に用いられます。有効成分はゲニポシド、ゲニピン、クロシン、クロセチンなどです。

クロシンやクロセチンには、胆汁分泌促進作用があります。また、この生薬に脂質代謝改善効果がみられるのは、ゲニピンのLDLコレステロール低下作用と、クロセチンの血中コレステロール低下作用によるものです。

胃腸薬に適用されるのはゲニピンの胃酸分泌抑制作用、鎮痛作用および瀉下作用(便通を良くし便秘を解消する作用)によります。ゲニポサイドおよびゲニピンには、記憶障害の予防効果が期待されています。

薄荷(はっか)

薄荷には、芳香性健胃、解熱、発汗作用があります。漢方として芳香性の矯味矯臭、駆風、整腸薬とするほか、メントールの鎮痛鎮痒作用を利用してハツプ剤などの外用薬に使います。

薄荷には精油が1.5~4%含まれています。主成分のメントールは70~90%と多く、辛味も強いです。

民間療法としては頭痛のとき薄荷を噛んだり、漆にかぶれたとき薄荷を煎じて患部を洗ったりしました。このほか歯痛や筋肉痛に外用したり、茎と葉を布に詰めこんで風呂に入れると補温性の浴剤となって冷え症に効きます。


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漢方薬の使用上の注意

漢方薬の副作用


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