-大動脈瘤の新しい血管内治療「ステントグラフト内挿術」-


大動脈瘤の新しい血管内治療「ステントグラフト内挿術」

大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)

大動脈瘤は、動脈硬化などによって大動脈の一部がもろくなり、瘤状(こぷじょう)にふくれる病気です。大きく、胸部大動脈瘤と腹部大動脈瘤に分類されます。自覚症状がないことがほとんどですが、破裂すると大量の血液を一気に失い、高い確率で死に至るため「サイレントキラー」とも呼ばれています。

破裂リスクは瘤の大きさや拡大速度、形状などによって診断されます。胸部で6センチ以上、腹部で5.5センチ以上の場合、あるいは1年間で0.5センチ以上拡大している場合は、手術を検討します。また、片側に瘤が飛び出ている「のう状瘤」と呼ばれるタイプは破裂リスクが高いです。

血圧を下げる等の内科的治療はほとんど効果なく、外科治療が中心となります。外科治療には、従来から行われているお腹を開いて行う「人工血管置換術」か、新しい血管内治療である「ステントグラフト手術」があります。

従来の治療法の「人工血管置換術」は、お腹を30センチ程切開して大動脈の血流を一時的に遮断して、瘤の部分を人工血管で置き換える手術です。治療法としてほぼ確立しており、死亡率は1-3%台と手術成績も安定しています。

しかし、開腹するために体への負担が大きいことや、全身麻酔をかけなければならないこと、また将来の腸閉塞や性機能障害などの合併症の危険性もあります。心臓や肺に過度の負担がかかるため、高齢の方や合併症の多い方は手術リスクが非常に高くなります。また、全身麻酔をかけられない方は、治療が受けられないというデメリットがあります。


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新しい血管内治療の「ステントグラフト内挿術」

新しい血管内治療のステントグラフト内挿術は、「ステントグラフト」と呼ばれるステント付きの人工血管を、血管内に挿入して大動脈を内側から補強する方法で、お腹や胸を切る必要もなく、数日で退院が可能です。

ステントグラフト内挿術では、足の動脈(大腿動脈)から小さく折りたたんだステント付きの人工血管を大動脈の中に挿入し、レントゲン透視装置下で瘤の位置に留置固定する手術です。

足の付け根を数ミリから数センチ切開するだけで行えるため、全身麻酔をかけられないような合併症の多い患者さんにも、局所麻酔あるいは背中の麻酔(硬膜外麻酔や脊椎麻酔)下で行えます。

痛みが少なく入院期間が短くてすむのが特徴です。「人工血管置換術」では約2-3週間の入院期間を要していましたが、「ステントグラフト手術」では3-4日で退院が可能です。また、開腹しないので、手術リスクの高い高齢の方にとっては特に有用です。

ステントグラフト内挿術の特長は、なんといってもからだの負担が小さいことです。局所麻酔でも治療することができ、手術当日から食事や歩行が可能です。また、人工血管置換術は約3割に重い合併症が起こるのに対し、ステントグラフト内挿術は約5%といいます。なにより、心臓や肺の働きが弱い、高齢である、といった患者さんにも、治療の可能性を広げました。

東京慈恵医大病院の血管外科教授、大木隆生医師は「瘤の形によってはできないこともあるなど、ステントグラフトにも課題があります。しかし、手術できずに破裂の不安を抱えていた多くの患者さんが、この治療で再び安心して生活できるようになりました」と話しています。

大木医師はステントグラフトを開発するため1995年に単身渡米しました。アルバート・アインシュタイン医科大学で12年間勤務し教授となった後、06年、母校に請われて帰国しました。これまで日米両国で、1500例以上のステントグラフト治療を実施しています。同院では過去3年問に500例以上の腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術を施術しましたが、死亡者はゼロです。

大木医師は大動脈から分枝する腎動脈などが動脈瘤に巻き込まれた胸部大動脈瘤に対して「枝付きステント」などを駆使しています。ただし、すべてが手術対象となるわけではありません。慈恵医大病院でも、受診患者の約6割は破裂リスクが低いので経過観察になります。

腹部大動脈瘤が2007年1月に保険適用となって以降(胸部大動脈瘤は2008年7月に保険適用)、治療を受けられる病院は増加しました。

ステントグラフト内挿術の実施医の条件

ステントグラフト内挿術の実施医になるには条件があり、関連10学会で構成する「ステントグラフト実施基準管理委員会」の基準を満たす必要があります。

たとえば腹部大動脈瘤では「腹部大動脈・腸骨動脈瘤の治療(手術あるいはステントグラフト内挿術)を、術者または助手として10例以上経験している」などの条件があり、最初の2例は指導医のもとで実施しなくてはなりません。


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